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東京地方裁判所 昭和43年(むのイ)504号 決定

主文

東京地方検察庁検察官堀部玉夫が昭和四三年七月二九日被疑者米田隆介の頭書被疑事件についてなした接見等に関する指定はこれを取り消す。

理由

一本件申立の要旨は、弁護人等提出の準抗告申立書記載のとおりであるから、ここに、これを引用する。

二当裁判所の事実調べの結果によれば、(一)被疑者は頭書被疑事件によつて、昭和四三年七月二六日逮捕され、東京地方検察庁検察官堀部玉夫は、同月二九日、右事件について別紙のとおり接見等に関する指定をなし、右の指定書は、同日、被疑者および同人の在監する代用監獄である久松警察署の長に交付され、被疑者は同月三〇日以降右警察署の留置場に勾留されていること、(二)右のような接見等に関する指定がなされた場合、弁護人が、被疑者と接見交通をするため、その勾留場所である久松警察署に赴いても、右の指定がなされていることを理由として接見交通が拒否され、弁護人は、検察官から、あらためて、接見等について具体的な日時、場所、時間の指定をうけ、その書面を提示しなければ接見交見が許されない実情にあること、が認められる。

三そこで、検察官のなした右の指定が果して刑事訴訟法第四三〇条第一項所定の「処分」に当るのかどうかについて考えてみるに、右の指定は、その指定書の文言から明らかなように、なんら具体性がなく、したがつて、法律上、弁護人に対し、直接権利を与え、義務を果するものではなく、又その法的地位に変動を及ぼすべき性質のものでもないから、刑事訴訟法第四三〇条第一項にいう「処分」に当るのかどうか極めて疑問であるといわなければならない。すなわち、右の指定書のもつ客観的な意味内容は、検察官は、捜査のため必要があるので、刑事訴訟法第三九条三項によつて将来接見等のための具体的な日時、場所、時間を別に指定する、ということであつて、右の指定は、いわば一般的な予告又は通告に過ぎないものといつてよく、これによつて法律上弁護人の固有の接見交見権が侵害されたものとみることはできないからである。

四しかしながら、右の指定書の交付をうけた警察署の長およびその命をうけた職員は、弁護人から接見等について具体的な日時等を指定した指定書の提示がない限り、右の指定がなされていることを理由として、弁護人の接見交通を拒否している実情であるから、右の指定書は、弁護人が本来自由になしうる筈の接見交通を事実上、一般的に禁止する結果を招来していることが明らかであつて、たとえ結果的にもせよ、検察官がこのような形で接見交通について一般的禁止を設定することは明らかに刑事訴訟法第三九条の精神にもとる違法な行為であるといわなければならない。すなわち、刑事課訟法第三九条第三項は、検察官に対し、接見等に関して具体的に日時、場所、時間を指定する権限を与え、かつ、検察官はこのような具体的指定によつてのみ弁護人の自由な接見交通を制限しうることを認めた趣旨と解されるからである。

五以上の次第で、弁護人は、検察官のなした右の指定によつて本来自由であるべき接見交見を禁止された違法な事実状態を除去し、これを本来の自由な状態に回復するための法律上の利益を有するということができ、この意味において、右の指定は「処分」の性格を帯びるものということができる。

六よつて、当裁判所は、検察官のなした本件接見等に関する指定は刑事訴訟法第四三〇条第一項所定の「処分」に準ずるものと考え、同法第四三二条、第四二六条第二項を類推適用して主文のとおり決定する。(土屋一英)

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